「いいの?」
「りな、まだ寝ないー!」

尋ねる私の声をかき消す娘の叫び。瑛理は腕の中の娘ににっと笑いかけた。

「理名の読みたい本、なんでも読むよ」
「だめー」
「理名が寝るまでずっとずーっと抱っこするし」
「んー」

パパっこの娘は、瑛理にちやほやされるのが大好きなのだ。こうしていつも懐柔されてしまうのだから、我が娘ながらチョロいものだわ。

「パパは理名が大好きだから、理名と寝たいな」
「じゃあ、いいよ」

私と瑛理はアイコンタクトで「よし!」と伝え合った。
娘は読んでもらう本をセレクトに行き、私は息子に寝る前だけ飲みたがるミルクを哺乳瓶で与える。

「ふたりが寝たら柊子とふたりの時間が取れる。そのためなら、寝かしつけなんて余裕だよ」
「すごく嬉しいなあ。でも、瑛理も疲れてるから、そのまま寝ちゃいそうだね」
「その時は起こして。飯食いたいし風呂入りたいし、柊子とイチャイチャしたい」
「子どもの前で変なことを言わないの」

私はニコニコしている瑛理の頭にこつんと拳を当てた。
大夢を抱っこして理名と寝室へ向かう瑛理の背中を見つめ、私はしみじみと幸福を感じた。

私は大好きな人と結婚し、家庭を築いた。回り道ばかりだったけれど、恋を伝え合って、想いを重ねた。
この先も平坦な道のりではないかもしれない。だけど、瑛理と私はお互いが絶対的な味方だって信じあっている。繋いだ手の信頼は変わらない。

「瑛理、大好きよ」

寝室に向かって聞こえない愛の告白をする。
毎日伝えているけれど、何度だって口にしたい。
三十分後、私は子どもたちと寝息を立てているだろう夫を甘いキスで起こす予定だ。



(おしまい)




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次ページからちょっぴり番外編です。

砂川雨路