「おまえの怪我に関しては、こちらも向こうも悪いから事故扱いで手打ち。それは納得してくれよ」
「兄貴、俺のことはいい」
「おまえの部下の戸田? あいつは悪いが、しばらく本社から離れてもらう。業務が重すぎたのだろうし、一番平和な地方の事務所へ行かせてやろうじゃないか」

そう言った兄は一瞬驚くほど冷たい顔をしていた。いつも明朗な兄の静かな怒りを感じた。それはしづきの後継者としてではなく、俺の兄としての顔だ。

「兄貴、責任はすべて俺にある。部下を管理しきれなかった」
「もちろん、おまえにも業務内容改善の指導が入る。社長令息だから見逃すということはない」
「……社長に、しづき全体に迷惑をかけた」

うなだれた俺の背を兄がぽんとたたく。すでにいつもの明るい笑顔になっていた。

「そう気にするな。いい経験になっただろう」

俺は黙ってうなずいた。そうするしかなかった。
情けない気持ちでいっぱいだった。

「瑛理……」

その声に弾かれたように顔をあげると、病室のドアのところに柊子がいた。

「柊子」
「瑛理、怪我はどう?」
「柊子ちゃん、さっき病院についてたんだよ。今、医者と話してきたんだろ?」

兄が立ち上がり柊子に椅子を進める。
柊子はおずおずと近寄ってきた。