「志筑リーダーがお忙しそうに見えたので」

戸田は不満を隠さずに言い放った。

「俺だって相談したいと思いましたけど、余裕なさそうな人に頼れないじゃないですか。俺、新入社員なのに、いきなりでかい客を渡されてたまらないですよ!」
「戸田、おまえ」

矢成がさすがに怒りで眉をつりあげた。怒りたい気持ちは俺も同じだった。
戸田は自分に責任がないと言いたいのだ。この状況を作った俺や会社側が悪いと言いたいのだ。しかし、俺はその子どもじみた態度と同じ土俵に立つことはできない。怒りを押し込め、静かに言った。

「おまえひとりに責任を持たせないために、矢成をつけた。先輩たちが忙しそうで相談できなかったというのは残念ながら社会人として通る言い訳じゃない。現に俺も矢成も、おまえを含めこのチームの人間には頻繁に声掛けしてきたつもりだ」
「俺は……声掛けされたようには思いませんでした」
「おまえがそう言うならそれでいい。職責として重かったというなら、仕事を任せた俺の責任だ。この先別なチームに異動願いを出してもいいと思う。ともかく、起こった事態の収束までは責任を持って動いてくれ。俺や二課長も一緒に対処するから」

戸田は悔しそうにうつむいて小さく「はい」とつぶやいた。
きっと、本人が一番わかっている。事態を甘く見て、自身の力を過信して、周囲に頼らなかった。状況が悪くなればなるほど、ひとりで抱え込み関係の悪化を招いた。それを表立って認めたくないのだろう。

「スワドラッグの営業本部長と店舗責任者にアポイントを。サタ運送へは俺が連絡をする」
「二課長に状況を報告してきます」

矢成が言い、俺はうなずいた。

「頼む。営業部全体の問題だから、俺も説明に加わる」