離婚却下、御曹司は政略妻を独占愛で絡めとる

土曜日のランチタイムに私は瑛理と待ち合わせた。予約した日本料理店はどちらの家族もよく使うお店で我が家からも近い。個室で瑛理は先に待っていた。

「もしかして懐石でも予約してるのか?」

私の顔を見るなりそんなことを言う。

「お弁当のコースよ。そこまでがっつりじゃない」
「それならよかった。夜は焼肉だから、柊子の腹が空いてないと困る」
「焼肉って春々苑? あそこのビビンバ大好きだからいくらでも入るよ」

瑛理といて気詰まりになることはない。幼馴染だし同級生だし、大人になってからも月に一度くらいのペースでは食事をしてきた。瑛理が私をからかい、私が怒るという面倒くさい構図が変わっていないだけ。

「でも、夜までなんていいのに。今、ここで話し合いするだけで充分だよ」
「会って昼飯だけ食って別れる夫婦って他所他所しいだろ。不仲に見せたくないんじゃなかったのか?」

確かにそうだ。私はもう少し、家族に離婚計画をばれたくない。
食事はお弁当が運ばれてくるスタイルだったので、給仕が出入りすることもない。食事がそろうと、私は「食べて」と瑛理に促して話しだした。

「離婚したいっていうのは、ずっと本心」
「……じゃあ、そもそも結婚しなければよかったんじゃないのか?」

箸を手にして、瑛理が冷めた口調で言う。瑛理の言うことはもっともだが、私にも言い分はある。

「それができる環境じゃなかったじゃない。兄さんと美優さんが婚約解消をして、親たちは私と瑛理に結婚を期待してた」
「でも、うるさく言う祖父たちはもう他界している。俺の親も柊子のところも、話がまったく通じないタイプじゃない」
「だからこそ、離婚したいって相談には応じてくれる気がするんだ」