旅を終えるとあっという間に九月がやってきた。
俺はまた忙しい日々に戻った。帰宅時間は毎晩遅く、家事などを柊子に任せてしまうことも増えた。気持ち的には充実しているが、柊子と語らう時間が減ったのは少し寂しい。
柊子は柊子で毎日休まず出勤し、家事も完璧にこなしている。
夕飯を一緒に食べられない日が多い分、朝食はしっかり用意すると朝から色々用意し、俺の健康を気遣ってくれている。
柊子にも負担をかけている。新チームが軌道に乗るまで頑張って、落ち着いたら必ずこの埋め合わせをしよう。そんなふうに考えていた矢先、事件が起こった。
「申し訳ありません、志筑リーダー」
そう頭を下げるのは同期の矢成。サブリーダーのポジションだが、俺を立てるために丁寧な口調を遣うことは多い。しかし、問題なのはおそらく矢成ではない。
その横にいる戸田は四月に入社した新人だ。矢成とともに頭を下げ、顔をあげた戸田はどこか不満げな顔をしている。
「スワドラッグの営業本部長からメールが来ている。この件か?」
俺はPCを差し、尋ねた。メールはついさっき来たばかりだ。
「スワドラッグ八重洲店の搬入時のトラブルから、しづき株式会社に信頼が置けなくなったとある。戸田が担当だったな、経緯を説明してくれるか?」
「俺の指導が行き届かなかったせいです」
代わりに説明しようとする矢成を制して俺は戸田を見つめた。戸田は唇を震わせ、口を開いた。
「もとはといえば、サタ運送の物流担当が悪いんです!」
戸田の説明の仕方に嫌な予感はした。
しかし、本人に話させるのが一番状況把握に近いだろう。そこに私情や保身が混じっているかも見極められる。



