昼過ぎまで泳ぎ、海の家のシャワーで砂と海水を流して荷物を手に移動した。
海から少し坂を上ったところにあるイタリアンを予約しておいたのだ。俺たちのような観光客も多い、気軽な店だ。

「結婚したばかりのとき、おばあちゃまの家に行ったじゃない」
「ああ」

四月、俺と柊子がお互いの気持ちがわからなかった頃だ。

「友達として楽しい旅行だったとは思ったけど、私、実は結構ドキドキしてたんだよ。瑛理とふたりで泊まりだったし」
「柊子、秒で寝たぞ」
「あれは、ふたりで調子にのって日本酒を飲みすぎたせいでしょ。瑛理もそうだったじゃない」

俺は言い淀み、それから答えた。

「俺は柊子の寝顔を眺めて、好きだなあって実感してから寝たよ」
「え!? そうなの!?」
「柊子は俺のこと、好きじゃないってがっくりもしてたけど、やっぱり好きな女の寝顔は見たいし」

柊子が両手を頬に添えて恥ずかしそうにうなった。

「そういうの言ってよ~」
「あのときは言えなかったから、今告白してるんだろ? まあ、今は柊子の寝顔ももっと可愛い顔も見放題だけどな」

からかって言うと、俺の狙い通り柊子は恥ずかしそうにうつむいている。本当にこういう初心なところがいつまでも可愛いと思う。