「水着、持ってない」
「買いに行く?」
「海……なんだか恥ずかしいな」

柊子はもじもじとしている。水着くらいで恥ずかしがる必要ないだろと言おうとして、無神経なことを言って柊子の機嫌を損ねるのは嫌だと思った。

「俺は柊子と旅行に行きたいけど」
「え、えっとね。私、その太ったみたいで」

太った? 別に俺はまったく気にならない。
むしろ、学生時代スポーツ少女だった柊子は細くて引き締まった身体付きなので、多少ふっくらしてくれても構わない。
柊子はさらに困ったように言う。

「瑛理に水着姿見せるのが恥ずかしいんだよ~」
「俺は見たい」

真顔ではっきりと言い切る。

「柊子の水着姿が見たい。学生時代、俺たち別なグループだったから一緒にプールとか海とか、行ったことないだろ? 柊子の水着姿を見た最後って、小学生時代のスクール水着。俺は柊子のビキニ姿が見たい」
「ちょ、やめて。そんなに熱弁振るわないで」
「いや、主張しておく。柊子は太ったと思ってるかもしれないが、俺はまったく気にしない。むしろ、そんな柊子の水着姿をもっと見たくなってきた」

さすがにちょっと気持ち悪いのではないかというくらい熱心に言い募ってみたところ、柊子が真っ赤な顔で観念したようにこくりとうなずいた。

「わかったわよ。行く。海に行く」
「俺も水着を持ってないから、一緒に買いに行くよ」

そうして、さりげなく俺好みの水着を推そう。柊子は困ったように言った。

「水着は恥ずかしいけど、海に旅行っていうのは嬉しいな」

柊子が喜んでくれるなら、俺はもっと嬉しい。こうして、俺は夏の旅行計画を急いで立てたのだった。