「私のこと……抱いてくれませんか?」

瑛理は驚いて言葉を失っているようだ。口は薄く空いているし、私を見下ろす目が真ん丸になっている。
私は焦りながらも必死に重ねて言った。

「瑛理が大事にしてくれているのが嬉しいの。だけど、私は遠慮されているようにも思えてしまう。私は瑛理の全部がほしい。私の全部をあげたい。こういうことも伝えていきたいって思ったの」
「……いいのか」
「いいに決まってる。私たち、夫婦だよ」

不安や心配なんか、私たちの間にはいらない。コミュニケーションが足りなくてすれ違う関係もいらない。
ほしいものは口にする。
大事だと伝える。
愛してると、あなたがほしいと。

「瑛理が好き。好きだから、そういう関係になりたい」
「柊子に言わせてしまったな」

瑛理は頬を赤らめて、私の身体を抱き寄せた。
重なる唇は、すぐにお互いをとろけさせる。瑛理のワイシャツの背にしがみつき、たっぷりとキスを味わった。もっと、もっと、と言葉にならない欲求があふれる。

「柊子」

瑛理が唇を離し、私の身体を横抱きに抱き上げた。その瞳は熱っぽくうるんでいる。

「夕飯、俺が温め直す」
「うん」
「先に、……いいか?」

私はうなずき、瑛理の首筋に顔を埋めた。瑛理の匂いが心地いい。

「いいよ」

寝室に運ばれ、シーツに下ろされる。エアコンが効いていても、興奮とお互いの熱で熱くてたまらない。

「瑛理、好きだよ」
「柊子」
再び深く唇を重ね合う。大きな瑛理の手が私の頬や首筋を撫でた。
高校生のとき、私は混乱して瑛理を受け入れられなかった。怯えた態度が瑛理の勇気も奪ってしまった。
時間はかかったけれど、私たちはやっとやり直せる。
何度もキスを交わしながら、汗で張り付く衣服を脱がせ合い、直に触れる肌の感触に震えた。
もう何も考えられない。瑛理でいっぱいだ。

「大事にする。この先もずっと」

瑛理の熱のこもった声音。私はうなずいて愛しい夫の唇にキスをした。