離婚却下、御曹司は政略妻を独占愛で絡めとる

河東くんとのランチを終え、私はひとりマンションに帰った。
いい友人を持ったことと、それでもこの結末は彼を傷つけたことなのだということ。それが胸を重くする。
だけど私は瑛理を選んだし、彼との未来を幸せなものにしていきたい。
河東くんの言う通りだ。私はひとりで不安を大きくしてしまうところがある。瑛理が帰ってきたら、話し合おう。恥ずかしがらずに、私たちの関係を進める提案をしてみよう。

マンション近くの街路樹のところに、見知った女性を見つけたのはその時だ。

「あなた……水平さん?」

そこにいたのは瑛理の後輩の水平しえさんだった。何度か会っているけれど、いつも瑛理への好意を隠そうともしない彼女。今日はどうしてこんなところにいるのだろう。

「何か御用ですか? よければ、お茶でも飲んでいかれませんか?」

自宅の真ん前での遭遇に警戒心はあった。それでも、夫の後輩だ。友好的に接しておきたい。
しかし、彼女はきつい瞳で私を見つめている。

「水平さん?」
「柊子さんは志筑先輩のことが好きなんですか?」

面食らった。いきなりそんなことを聞いてくるとは。返答に迷ったけれど、微笑んで正直に答えた。

「ええ、夫婦だし」
「そういう当たり前な言葉が聞きたいんじゃありません」

水平さんは可愛らしい顔を歪め、厳しい口調で返す。

「私は志筑先輩が好きです。最初は……社長の息子だし、条件がいいからって思っていました。でも、だんだん志筑先輩の人間的な部分に惹かれていきました。許嫁がいるって聞いて、あなたの姿を写真で見せてもらって……あきらめたくないって思い続けてきました。それはご結婚された今もそうです」

水平さんの言葉は真剣だ。怒りすら感じる口調は、私と対決するつもりできた彼女の覚悟を感じさせた。