離婚却下、御曹司は政略妻を独占愛で絡めとる

和食か、まだたいしたものは作れないけど、食べたいものがあるなら作りたい。

「手の込んだものを頼んじゃおうかな」
「ええ、困るよ、そんなの。初心者に毛が生えたくらいなんだから」

瑛理は目を細め、いたずらっぽく笑った。

「嘘、嘘。柊子が作ってくれるならなんでもいい。味噌汁が飲みたいかな」
「わかった。それじゃあ、おかずは何か考えておくね」

なんでもいいか。そう言われるとかえって困ってしまうけれど、瑛理が帰ってくるまでにゆっくり決めよう。

「あ、今日河東くんに挨拶してくるから」
「ああ、それは行ってこい。俺も我慢する」

瑛理が一転渋い顔になってから、うなずいた。
河東くんには、私と瑛理がきちんと両想いになったことと同居の報告を二ヵ月前にしてある。しかし一度会って、相談に乗ってくれていた御礼を言いたいと思っていたのだ。
瑛理に許可を取るために、相談の内容が私たちの夫婦関係だったという事実も告げた。瑛理はそういうことならとOKを出してくれたのだ。

「俺も柊子のことで職場を尋ねたし、詫びと御礼を俺の分も頼む」
「うん、ちゃんと伝えてくるよ」
「寝室一緒とダブルベッドの提案も河東だったんだよな。そこが一番の感謝ポイントだな」
「もー、何言ってんのよ」

朝食を終えると、瑛理は昼のフライトのため空港に向けて出発する。玄関先で、軽くキスを交わした。

「行ってくるな」
「うん、行ってらっしゃい」

視線を絡ませ、微笑み合う。ちょっと寂しいけど、この通じ合っている感覚が嬉しい。
そう、身体の関係なんて焦る必要ないじゃない。私たちは想い合っているんだもの。
私は瑛理を見送り、部屋を掃除して、河東くんとのランチに出かけるのだった。