兄の結婚式が終わり、翌々日には瑛理のアメリカ出張が入っていた。瑛理は近く部署の細分化に伴いチームリーダーになるそうだ。今回の出張は同業態の視察だという。
厳しいお父さんから認められ、瑛理が新たなポジションを与えられたことは私にとっても誇らしく嬉しいことだ。

「四泊五日だからすぐに帰ってくるけど、いい子にしてろよ」

出張の朝、瑛理は食卓でそんなことを言う。
私は怒った顔をして見せ、つんと言った。

「大丈夫です。子ども扱いしないで。瑛理こそ、羽目を外しすぎないでよ?」
「俺は仕事だって。まあ、誘われても変な店には行かないから安心しろ」

瑛理のことは信用している。でも、こんなふうにごまかし合わないとちょっと寂しいのだ。
同居してからこれほど離れるのは初めてだし、アメリカと日本じゃ何かあったときすぐに駆け付けられない。距離は単純に不安だ。

私と瑛理が同居して二か月、私たちに身体の関係はまだない。
キスはする。だけど、それも挨拶みたいな優しいキスがほとんど。たまに深いキスになっても、お互い身体が火照りそうになると瑛理はすっと引いてしまう。表情を見る限り、我慢してくれているのだとわかる。

瑛理が私を大事にしてくれているのはすごく嬉しいのだ。一方であまりに遠慮されると、やっぱり私じゃ最後までする気にはなれないのかなと感じてしまうこともある。
瑛理が私を好きなことはもう疑っていない。だけど、好きと肉体的な欲求が必ずしも一致するわけじゃないもの。
長く幼馴染で友人だった私たち。気持ちを抑え込んでいた期間が長い分、性に関してはこじれている気がする。

「帰ってきたら柊子の作った和食が食べたいな」
「ええ、何がいい?」

瑛理のリクエストに、すぐにぱっと明るい表情を作った。妙なことで不安を増やすのはやめよう。