式まであと少しという時間。親族は兄と瑠衣さんを中心に写真を撮ったり歓談をしている。
私と瑛理は壁際に寄って、ひと息ついていた。私はまだ鼻をすすっている。

「メイク、崩れちゃったかな」
「柊子はメイクしてなくても美人だから問題ないだろ」
「嬉しいけど、そういうことじゃないでしょ。写真にも残ると思うし」

横をちらっと見ると、瑛理が私を見下ろし、存外真面目な顔をしていた。

「邦親さんの結婚が、柊子のあげた離婚の条件だったな」
「う、うん」

確かに最初、私はそう言った。兄が幸せになったら、そのどさくさでひっそり離婚しようと。

「離婚、無しでいいんだよな」

瑛理の言葉に私は目を見開いた。もしかして、その確認をしたかったの?
私は瑛理を不安にさせてしまっていたのかもしれない。申し訳ない気持ちが湧いてきて、瑛理を熱心に見つめる。きちんと伝えておかなければならない。

「離婚しない。ずっとずっと瑛理といる」
「ん。そう言ってくれるとわかってたけど、つい。ごめんな」

瑛理が私の左手を柔らかく握った。ここは親族室で、両親や親戚もいるのに。美優さんや誠さんがいつこちらを向くとも限らないし、目撃されたら絶対に冷やかされる。

「瑛理、恥ずかしいよ」
「俺はこうしていたい。駄目か?」

愛情深い瞳でのぞき込まれ、私は反論を失ってしまった。瑛理が手を繋ぎたいなら、そうしてあげたい。そんなふうに思ってしまった。
コミュニケーションが足りなくて、引け目を感じるほどお互いに距離を取ってきた私たち。要望は言葉と態度に。素直に伝え合っていく努力はこれからもしていかないと。

兄と瑠衣さんの挙式は盛大に執り行われ、私は式の間中やっぱり泣きっぱなしだった。隣には瑛理がいて、守るように寄り添ってくれていた。