「柊子と瑛理も背中を押してくれた。ふたりともありがとうな」

私は言葉にならず、こくこくとうなずく。せっかく綺麗にメイクしたのに、式の前から涙が止まらないのでは台無しだ。
瑠衣さんが真っ白なレースのハンカチを差し出してくれる。

「柊子ちゃん、使って」

私より十四歳年上の花嫁は、笑顔もあどけなく綺麗だった。
彼女のおなかに新しい命が宿っていることは、私たちごく一部の身内しか知らない。私の甥っ子か姪っ子……。駄目だ、感動でやっぱり涙が出てしまう。

「それにしても、帰国してみて、瑛理と柊子ちゃんが想像以上に親密そうで安心したわ。マンションを提供した甲斐がある」

感涙の涙をぬぐいもせずに、こちらを見て美優さんが言う。

「ふたりの結婚式からまだ四か月しか経ってないのよね。でも、その頃と全然雰囲気が違うわ」
「えっと、美優さんのおかげです」
「結婚しても、こいつら素直じゃないからなかなか進展しなくてさ。別居してるし、どこかよそよそしいし」
「見ていて、じれったかったよねえ。お互い好きなくせにさ~」

兄も誠さんが口を挟んでくるのだけど、ふたりともそんなことを思っていたのかと今更ながら恥ずかしい。それと、私と瑛理の話はやめてほしい。今日の主役の兄と瑠衣さんに話をもっていこうと思ったら、瑛理がぼそっと言った。

「俺と柊子は充分仲良くやってるんで、ご心配なく」

そういうことを堂々と宣言できるようになったのね、瑛理。変われば変わるものだなあと思いつつ、私は赤面を隠すようにうつむいた。

「あーあ、これで独り身は俺だけかあ」

誠さんがわざと寂しそうな声を出すけれど、たぶん誠さんはまったく孤独を感じていないだろうし結婚を急ぐ気もないのだろうと思う。
もし、誠さんが独身を貫くなら、いよいよ志筑家の跡継ぎは私と瑛理の子どもに? 考えてまたひとり猛烈に照れてしまった。