『そうだね』
『柊子で我慢しろって言うならしてもいいけど』
我慢。えぐるような言葉に私は涙ぐみそうになるのを堪えた。その代わりに瑛理の肩に思い切りパンチをした。
『我慢とか言うやつと結婚なんか私は嫌だよ』
『いってえ。おまえ、力つよ……』
私はそれ以上、瑛理と会話せずにその場を離れた。今でも思いだすちょっと虚しくなるような思い出だ。
それから十年、私たちは大人になった。瑛理はいまだに意地悪だし、外面ばかりいい。私とはつかず離れずで、親の手前たまに食事に行く程度の関係を維持してきた。
恋人じゃなく友人。それが私たち。
結婚の話は大学を卒業してすぐに双方の親から出た。両家とも曽祖父、祖父は亡くなっていたけれど、父親同士はその気のままだ。
私と瑛理が従ったのは兄と美優さんのためだった。美優さんは一昨年結婚し、今は旦那さんの礼(れい)さん仕事についてオーストラリアと日本を行ったり来たりの生活をしている。兄にも大事な恋人がいて、実は美優さんの熱愛が持ち上がる前から付き合っていたというのは後から知った。婚約破棄は兄にとっても都合のいいことだったらしい。食えない男だとつくづく思う。
ともかく、兄と美優さんが今幸せなら水を差したくない。私と瑛理は家同士を結ぶために結婚するしかない。
ただ、私は考えていた。私個人や瑛理の幸せを蔑ろにしていいのだろうか。
兄姉の幸せを優先はしたけれど、自分たちの人生を言うなりになったままでいてはいけない。中学生の頃の瑛理は言ったじゃないか。『我慢』だと。
だから、私は瑛理との結婚の話を進めながら考えた。私と瑛理が穏便に離婚できる方法を。
私たちには未来を選ぶ権利があるのだ。
家のために我慢して過ごしてはいけない。
『柊子で我慢しろって言うならしてもいいけど』
我慢。えぐるような言葉に私は涙ぐみそうになるのを堪えた。その代わりに瑛理の肩に思い切りパンチをした。
『我慢とか言うやつと結婚なんか私は嫌だよ』
『いってえ。おまえ、力つよ……』
私はそれ以上、瑛理と会話せずにその場を離れた。今でも思いだすちょっと虚しくなるような思い出だ。
それから十年、私たちは大人になった。瑛理はいまだに意地悪だし、外面ばかりいい。私とはつかず離れずで、親の手前たまに食事に行く程度の関係を維持してきた。
恋人じゃなく友人。それが私たち。
結婚の話は大学を卒業してすぐに双方の親から出た。両家とも曽祖父、祖父は亡くなっていたけれど、父親同士はその気のままだ。
私と瑛理が従ったのは兄と美優さんのためだった。美優さんは一昨年結婚し、今は旦那さんの礼(れい)さん仕事についてオーストラリアと日本を行ったり来たりの生活をしている。兄にも大事な恋人がいて、実は美優さんの熱愛が持ち上がる前から付き合っていたというのは後から知った。婚約破棄は兄にとっても都合のいいことだったらしい。食えない男だとつくづく思う。
ともかく、兄と美優さんが今幸せなら水を差したくない。私と瑛理は家同士を結ぶために結婚するしかない。
ただ、私は考えていた。私個人や瑛理の幸せを蔑ろにしていいのだろうか。
兄姉の幸せを優先はしたけれど、自分たちの人生を言うなりになったままでいてはいけない。中学生の頃の瑛理は言ったじゃないか。『我慢』だと。
だから、私は瑛理との結婚の話を進めながら考えた。私と瑛理が穏便に離婚できる方法を。
私たちには未来を選ぶ権利があるのだ。
家のために我慢して過ごしてはいけない。



