離婚却下、御曹司は政略妻を独占愛で絡めとる

「ごめん、柊子。大事にするって言っておきながら」

俺は慌てて一歩引き、頭を下げた。

「ううん、私は……あの、その、えっとね」

柊子は言い淀み、おそるおそる尋ねる。

「瑛理はこういうこと、したい?」

ぎくんと俺は固まる。抑えているつもりでも下心は透けて見えているのだろう。

「あの、私で、瑛理はその気になるの?」
「なるに決まってるだろ?」

思わず食い気味に返してしまった。何しろ、柊子の言葉が自身の魅力に鈍感なものだったからだ。

「いつだって柊子に触れたいと思ってる。でも、前も言った通り、高校のときのこと反省してるんだ。柊子に嫌な思いをさせた」
「あれは、驚いただけだからね」

柊子が赤い顔で訂正した。

「瑛理とそういうことになってもいいって、ちゃんと思ってたよ。だけど、手とか勝手に震えちゃって、怖かったとか、嫌だったってわけじゃないから」
「でも、俺、強引だったよな」
「むしろ『試してみよう』みたいな軽いことを言われてショックだったよ。それに、あれ一度きりだったから、やっぱり瑛理は私を女として見てないのかなって思っちゃって」

そうか。俺が照れ隠しで言った言葉で、柊子は傷ついて自信を失っていたのか。
怯えていたというより、悲しくてあんな表情をしていたのだとしたら。

「ごめん。俺、あの頃から柊子のことすごく好きだったから。それなのに、恥ずかしくて嫌な態度を取った」
「いい、いいよ! 今更だし、も、もう瑛理の気持ち、知ってるし!」

突っかかりながら言う柊子の肩に触れた。
びくんと震える華奢な身体。だけど、手を離さない。
すると、柊子が俺をまっすぐに見上げた。何か言いたげな表情が見てとれる。

「俺は柊子のこと、ずっと女として見てる。意識してる」
「瑛理」
「キスしたいんだけど、いいか?」