離婚却下、御曹司は政略妻を独占愛で絡めとる

ちょうどティータイムにいい時間である。俺はケーキを買って、ふたりのマンションに帰宅した。

「ただいま」

玄関で呼びかけるが、室内はしんとしていた。柊子は出かけているのだろうか。
リビングに入ると、ダイニングテーブルにつっぷして柊子が寝ていた。

最初は具合が悪いのかと心配になった。しかし、近くに置かれた飲みかけのコーヒー入りマグカップ、しおりのはみ出た文庫本、そして安らかな柊子の寝息と寝顔に、単純に寝てしまっただけだとわかった。
本当によく眠っている。顔にかかった黒髪の束を除けてやっても、起きる気配はない。

可愛い柊子。
本当は一日でも早く俺のものにしたい。めちゃくちゃに抱いてしまいたい。
だけど柊子が大事だから、簡単に手を出したくない。その気持ちも本物なのだ。

「柊子」

髪を除けるとき触れてしまった柔らかい頬から指を離せない。何度か、つつ、と指を這わせる。まったく起きる様子がない。
駄目だと思いながら吸い寄せられるように顔を近づけると、柊子の甘い香りがした。
魔が差したのだ。俺は触れるだけのキスを柊子の頬に落とした。

その感触に、柊子がぱちりと目を開ける。
しまった。あれだけ軽々しくは触れないと誓っていたのに、柊子の頬にキスを……。

「瑛理……」

柊子が身体を起こす。赤い頬に手を当て、じっとこちらを見ていた。
キスはバレていてごまかしようもない。