「赤ちゃんか」

思わずぼそっとつぶやいてしまい、俺は慌てて柊子の横顔を見た。柊子は操作に夢中で聞いていなかったようでほっとした。
先日も子どもの話題になって、柊子はあきらかに困っていた。柊子はきっと子どものことなんか考えられないだろう。俺と触れ合うことだって、どこまでOKかわからない。

「明日も仕事だから、ほどほどでやめるぞ」
「はーい」

俺の親みたいな注意に元気な返事をする柊子。一緒に過ごす一分一秒が幸せに満ちている。友達みたいで、だけどすごく親密で。
今はこの時間を大切にしよう。やっと近づけた俺たちだ。俺たちのペースで進めばいい。
さんざん遊んで、日付が変わる頃に切り上げてベッドに入った。

「おやすみ、瑛理」
「おやすみ」

声をかけあって、しばらくすると隣から健やかな寝息が聞こえてきた。暗い部屋でも目をこらせば柊子の寝顔が見える。俺を信頼しているから、並んで眠ってくれる柊子。
その信頼に応えたい。
柊子が俺に触れられてもいいと思ったときに、キスをしたい。身体を重ねたい。
しかし、俺もまた男である。
長年思い続けた可愛い妻の寝顔に、苦しいばかりの情動を覚えつつ、その欲を抑え込んで眠りにつく努力をするのだった。