「全然勝てない~」

対戦の格闘ゲームにしろ、陣取りゲームにしろ、不器用な柊子は負けてばかりでぷりぷり怒っていた。そんな顔がまた可愛いのだ。

「柊子、技のタイミング早すぎ。つうか、ゲージ見てる? これ溜まった時でないと大きな技でないぞ」
「見てるつもりなんだけどなあ」

煽っていじめて怒った柊子も見たいけど、今は甘やかしたくて距離を縮めたくて俺も必死だ。

「ほら、こうだよ。練習モード付き合うから」
「瑛理、器用すぎる。でも、負けないからね」

へたくそなのに、負けず嫌い精神で練習する。柊子は何事もそうだ。できないことは何度も練習して上手になる努力家。そんなところが昔から好きだった。

「そういえば、邦親さんの結婚が決まったって?」

コントローラーを手に尋ねると、操作に集中している柊子は、しばし答えられずにいた。ようやく手を止められるタイミングでこちらを向く。

「そうなの。私も今日連絡をもらった。まだ両親しか知らないんだけど、瑠衣さんがおめでただそうで」
「うわ。邦親さん、それ絶対狙ってただろ」
「だよねえ。兄さん、何が何でも結婚する気だったんだと思う。赤ちゃんは親への切り札で、瑠衣さんへの覚悟の証だったんじゃないかなあ」

つまり、この前引っ越しで訪ねてきてくれた時にはすでに恋人の妊娠がわかっていたのだろう。
そんな様子はまったく見せなかった。相変わらず食えない人だ。