見つめ合う二人の周りで、満開の桜が散り始めていた。


『楓さん。手術したんだね。綺麗だよ、とても。本物のガイドかと思って、全然分からなかったよ。どうして黙っていたの?』


実のところ、ずっとガイドの声や笑顔に、妙な感覚を感じてはいた。

しかし、まさか彼女とは思いもしなかった。


『私・・・こんな、作り物の顔だし・・・。今更言い出せなくて。ごめんなさい。』

『そんな、謝らなくていいよ。』

彼女の気持ちも分かる気がした。

『でも、また会えて本当に良かった。僕はこれでも探したんだよ。・・・君のことが忘れられなくて。』

今頃になって、素直に言える自分が不思議であった。

武志は少しの間、考えた。

『そうだ!楓さん。もう一度、あの木のところへ行ってみようよ。』

二人の想いを確かめたかったのかも知れない。

楓は何もきかずに従った。

途中、武志は車からバッグを取り、二人で校門へ向かう。


門には鍵がかかっている。

バッグを肩にかけ、武志は先に門を乗り越えた。

彼女を、と思って振り向くと、もう彼女は入っていた。


そうして二人は、一番奥の「恋人の木」へと歩いて行った。


(・・・!!)


『か、楓さん!!』

『武志さん。』

二人が驚く目の前で、一度も咲くことがなかった桜の木に、花が咲いていた。


小さな木ではあったが、他の木に勝るとも劣らない、見事な花が咲き乱れていた。


『楓さん。咲いたよ!先生の言っていた話は、本当だったんだ。こんなに綺麗に!!』

武志は、彼女に会えた喜びと、花が咲いたことに感極まり、暫く桜を見つめていた。

そして・・・彼女の方を向いた武志の笑顔が固まった。

じっと花を見つめる彼女には、悲しみと切なさが漂っていた。

それは、あの日、教室からこの木を見つめていたものと、同じであった。