~桜木中学~

お酒の飲めない武志は、自分の車で、先に着いた。

夜の校舎はひっそりとして、やはり不気味なものである。

校庭の桜は、今も変わらず見事で、外灯の明かりにライトアップされて綺麗であった。

バスが到着し、秀樹があらかじめ借りていた鍵で、門を開ける。

それぞれ期待と不安を胸に、中へと入っていった。


校庭の一番奥に、その小さな桜の木は、あの頃とかわらぬまま立っていた。

花は、やはり咲いてはいなかった。


『やっぱり、咲かねぇか。』

みんな本心では、あるはずがないと分かってはいたものの、どこかで「もしかしたら」とも思っていたのであった。

ため息に包まれる「恋人の木」。


『では、男ども!例の袋を渡すぜ。今はまだ咲いていないが、もしかすると、咲くかもしれねぇからな。みんな頑張れよ。』


暫くは、笑い合う者、ボーっと落ち込む者、握手をする者、涙する者、様々な風景で賑わった。


『武、見てくれ。オレは何と3つも入ってたぜ。一応3人共、メルアドを交わしたし…。お前は?』

『ハハ、オレは分かっているからいいんだ。こんなの。』

武志が、ここにいない彼女を思っていることを知った秀樹は、それ以上は言わなかった。かくして、ミステリックな同窓会は終わった。

バスの前には、ガイドが待っていた。みんなが乗り込むのを見ながら、秀樹は武志に話しかけた。

『元気出せよ!彼女はきっとどこかでちゃんとやってるさ。お前も早く立ち直れよ。』

『ああ、サンキュ。楽しかったよ。』

『しっかし、藤原先生が生きていたら、さぞがっかりしただろうな。』

(・・・?)

『何だって?先生は亡くなったのか?』

『そうか!バスの中で話したんだが、お前には言ってなかったな。先生はあれから1年で逝っちまったんだってよ。癌で。』

『しかし、ガイドが連絡を取ったと・・・』

『はぁ?なんだそりゃ。とにかくもういないんだ。』

武志は、あの時の寂しげな藤原の表情を思い出した。

『先生は、それが分かっていて・・・』

『そういうことだ。それからな、先生の先祖は、代々この地の地主であったらしい。』

『もしかして・・・』

『ああ、例の話の中で、命と引き換えに、100年に一度の約束をしたのは、先生のご先祖様なんだってよ。』

それが、藤原が「恋人の木」に執着した理由であった。