雷雨は激しさを増し、排水から溢れた水が道路へ流れ出していた。

ゲームセンターがあるビルの前。
七海は、信雄が駅前に現れるのを待っていた。
自分の誕生日に定時で帰らない はずはない。



丁度その頃、部活帰りの慎吾を乗せたバスが、駅前の交差点に近づいていた。
いつものシフトと違って、あの運転手である。



また、そのバスのわずか10m後方の追い越し車線を、宅配便のトラックが走っていた。
七海に貰った飴を口に入れ、ニヤつく。



そして…
駅側の道路脇では、信雄の妻、千佳が車を停めて、信雄が駅へと来るのを待っていた。



そこへ、涼音と信雄がネットカフェから現れ、相合傘で駅へと渡る信号を待つ。



二人の関係には、七海は気付いていた。
今更の驚きはない。


むしろ…それを見て笑みを浮かべる。


(あれ、七海?何でこんなとこに?)

バスから慎吾が七海に気付き、窓を開ける。
激しい雨が降り込んで来る。

「七海〜!」

大声で叫ぶが、雨音と水を掻き分け走る車の音で聞こえない。
ずぶ濡れになりながらも、窓から半身を乗り出し、叫びながら手をふる慎吾。


信号が変わり、二人が横断歩道を渡り始める。


中車線先頭のバスの運転手が、アクセルから足を離しかける。

一瞬、七海が慎吾を見て…薄く微笑んだ。

まさにその瞬間。
「ドドーンッ❗️」
大きな落雷音が響き渡った。


「ゴフッ!」
驚いた配達員が飴を喉に詰まらせ、誤ってアクセルを踏み込み、左斜め前のバスの右側へ接触する。

「ガンッ!ギュルルル…ぐしゃ❗️」


まるでそれが合図であったかのように、驚いたバスの運転手が、離しかけたアクセルを思い切り踏み込んだ。


バスのライトに、二人の恐怖に満ちた最期の顔が浮かび上がる。


「ドンッ、グシャ❗️」

信雄の体が宙を飛ぶ。
涼音の体がタイヤの下に消える。

運転手が右に急ハンドルをきり、傾いた車体が水の抵抗で横転する。

上半身を失った慎吾の体が、バスの中へと消えていく。



ほんの一瞬の出来事。
それぞれの運命が、その一瞬…交差した。