行き詰まる捜査。
名古屋市警としては、捜査本部を解散する動きが出始めていた。

元々、事故死となった事件。
そして、殺人未遂で拘留していた千佳も死亡した今、残るは拳銃窃盗犯の七海のみである。

しかし、この事件の恐ろしい真相は、まだ誰も分かっていなかった。

その頃、三人は笹原の家にいた。

「やっぱり、訓練する様な器具はないわね」

そう言いながらも、咲の勘は、この家に向いていたのである。

「綺麗に片付いてますね」

「だが…少々…綺麗すぎやしねぇか?」

咲も不自然さを感じていた。
生活感が感じられないのである。

(ん?)

リビングのソファーに座り、部屋の隅々を眺めていた咲の視線が止まる。

「どうした、咲?」

富士本は、咲をずっと見ていた。

「あそこ」

その指の先は、リビングに繋がる隣の洋室。
そこから半分覗いている大きなショーケースを指していた。

「凄いですよね、あれ全部七海さんの…」

「昴!窃盗犯を「さん」なんて呼ぶな!」

感情移入は捜査に油断を作る。
刑事経験からの一喝であった。

数学や暗記、哲学、歴史、民族、人間工学…ざまざまな検定や、コンクールの成績が並ぶ。

「中坊のくせに、大学レベルの学力だな」

「普通はそこに目がいくわよね💦全く、上手いカモフラージュだわ」

「えっ?」

「昴、そっちから押してみて」

「そんなの、転倒防止の固定…が…あれ?」

「ねぇな、こいつだけ」

他の家具は、全て金具で固定されていた。
昴が押す…と動いた。

「地下室とはな」

「昴!」

咲がアゴで指し図。

「えぇ〜💧」

「男でしょ!フンっ❗️」

諦めた昴。
真っ暗な階段をスマホライトで降りて行く。

「あらま?」

入り口のすぐ上のスイッチを押す咲。
照明の下に、恨めしげに見上げる昴がいた。

「……💦」

咲も下に降りる。

「な…何この部屋は…」

床も壁も天井も、全てが真っ赤であった。
その壁に、鎖や手錠など、怪しい器具類が並んでいる。

(この匂い…)

「富士本さん、待って」
降りかけた富士本を咲が止める。 

バッグからライトを取り出す。

「電気を消して」

(この俺も昴と同じかょ、フッ)
笑みを浮かべて、スイッチを切る。

真っ暗な部屋で、咲がブルーライトを灯す。

「ひどい…」

富士本も降りて来た。

「やはりDVか…まるで拷問並だな」

ブルーライトに、部屋中に飛散した血痕が無数に浮かびあがっていた。

「あいつ!」歯を噛み締める咲。

「死人に腹を立てても、意味はねぇ」

「七海は、きっとこれも知っていた…」

富士本が鑑識に連絡をする。

咲の頭の中で、何かが形を現していた。
異様で禍々しい何か。

「富士本さん、ついでに三…上だっけ?本部でみんな待ってるように伝えて!」

(全く…)という表情はしつつ、伝える。

(事件は…まだ終わっていない…)

咲の嫌な予感が膨らんで行く。