「刺された男性は、笹原信雄 45才。現場近くにある建築コンサルタント会社『MIRAI』(みらい)の営業課長」
モニターに信雄と会社の写真が映る。
「おぉ…」 (はぁ〜全く)
捜査員の驚きの声に、ため息をつく咲。
「刺したのは…笹原千佳 27歳、専業主婦。そばにいた少女は、笹原信雄の娘 七海 15才」
「何っ!本当なのか君❗️母親は27歳なんだぞ」
三上課長が問う。
「富士本さ〜ん、続けていいかしら?」
振り向きもせずに聞く。
「続けろ」
「私は、『笹原信雄の娘』と言ったはずよ。七海の母である菜々子は、1年前に交通事故で死亡。この時のショックからか、七海は普通に声が出せなくなってます。千佳とは、その半年後に再婚し、新守山駅近くの中古住宅へ引っ越しています」
あまりに早い再婚に、ざわめく室内。
「それから…バラバラになっちゃった女性は、笹原信雄のアシスタント、若林涼音と考えて間違いないと思います。二人とも昨日同時に出かけ、今朝は出社していません」
『不倫』の疑念が、ざわめきを増幅させる。
「静かにしろ!いらん先入観は持つな!」
今度は富士本に軽く会釈する咲。
「バスん中の下半身の持ち主は、七海と同じ私立金山高校3年、草彅慎吾 15才と思われます。昨夜は自宅に帰らず、今朝捜索届けが提出されました。残念ながら上半身は確認不可能です」
咲が間を置く。
「七海と慎吾は、恋人関係であった様です」
次々と語られる内容と写真や資料に、全員の集中力が高まる。
(鳳来咲…か。たいしたもんだ)
その雰囲気を悟り、嬉しそうな富士本。
「それから?」
富士本の言葉に、驚く捜査員たち。
「え〜っと、名古屋市営バスの運転手は、山口聡 29歳。千種総合病院へ搬送され、まだ意識は戻りませんが、命に問題はありません。それとあと一人、宅配便の男性は、株式会社リードの豊山豊(ゆたか)32歳。同病院に搬送されましたが、死亡」
「何っ!」
「あら?まさか知らなかった…なんて言わない…わよね?」(って、マジか!)
目先の被害者と加害者ばかりを意識し、確認が漏れていた。
「ちなみに…死因は、窒息死」
「な…」
咲が掌を突き出し、疑問符❓を制する。
「喉にコレが」
モニターに大きめの飴玉が映し出された。
「恐らくは、落雷に驚いて喉に詰まらせ、パニック状態で暴走して、バスに接触。あの雨の中、何故か上半身を窓からのり出していた、草彅慎吾の上半身を分断し…すり潰した。トラックの左側にソレが残っていました」
ざわめく室内。
色々な憶測が飛び交っていた。
そのうちの一人が、咲の逆燐に触れた。
「そんな偶然があるのか?何で妻と娘がいたんだ、しかも死体をわざわざ刺して捕まるなんて、おかしいだろう!」
(おいおい、しらねぇぞ)
富士本が小指を両耳に突っ込む。
「ん…もう〜アッタマ来た❗️それを調べるのが、あんたら警察だろ❗️甘えんのもいい加減にしやがれッ❗️このタコ❗️」
部屋を貫通した強烈な衝撃波が、表まで響き渡った。