二人が現場に着いた。
駅前の交差点は完全に封鎖され、雨の中、大勢の警察官が慌ただしく動き回っていた。

止める警官に、警察手帳を見せる。

「本庁刑事課の富士本だ」

「し、失礼いたしました!」
慌てて敬礼する若い警官。

どさくさに紛れて、咲も後に続く。

指揮をしている刑事が、富士本に気づき、駆けて来る。

「富士本刑事!どうしてここに?」

「んなこたぁどうでもいい。害者は?」

「あっ、はいこちらです」

横転したバス。
破損した宅配便のトラック。
そこまで見渡した咲がふらつき、富士本にしがみつく。

「どうした、咲さん?大丈夫か?」

怖いもの無し…の咲ではあったが…

「私、血🩸は苦手なんです💧」

「はぁ?…まぁ…そうか、ほらよ」

富士本が内ポケットから黒のサングラスを取り出し、咲に渡す。

「あ、なるほど…」

すぐさまかける。
ミニスカ、ハイヒール👠、黒サングラス🕶。

「ヤクザの女房だな」

「失礼な!…とりあえずこれで大丈夫だわ」

歩きながら彼が説明する。

「害者は男性二人と女性一人。目撃者の話では、あのバスとあの宅配便が交差点に近づいた時、大きな落雷があり、その直後、宅配便がバスと接触。そして何故かバスが赤信号を無視して急加速し、横断中の男女二人を跳ねた後、横転したとのことです」

「もう一人は?」

「あ、はい。バスの中で…発見されました」

「それじゃあ、ただの事故じゃ…」

「ないんだな?」富士本が咲を遮る。

「はい…おそらく…」

二人がその歯切れの悪さに目を細める。

「こちらが跳ねられた男性です」

青いビニルシートをめくる。

「ひでぇな、こりゃ」「凄いわね」

平然としている咲に、富士本は驚いた。

「全身を強打してる上に、胸には複数の刺し傷があり、身元は確認中です」

「これかぁ…」

男の胸には長い包丁が突き刺さっていた。

「刺身包丁ね、これ。しかも新品」

富士本が、「ほぅ…」と咲を見る。

「つまり、事故死か殺傷による殺人か?その答えは、死因次第ってことね」

「はい。その通りです」

「女性の方は、アレだな」

富士本が目を向けた路上に、複数のシートが被せてあった。

「え…ええ。タイヤに巻き込まれて引きずられたようです」

「で、アレがこの凶器の持ち主か」

仮設テントの下で、手錠をかけられて震えている女性を見る。

「はい。発見時なんですが…」

「彼女がコレに馬乗りになって、凶器を握りしめてたってわけかぁ…」

また驚かされる富士本。

「なぜ、分かるんだ?」

「死後硬直し始めてる害者の腹部が異様に凹んでいるし、死体の脇に彼女の片方のヒールが転がってるじゃない」

「なるほど」二人の男が感心する。

「ん?あの娘って…確か…。あの少女は?」

少し離れた場所で、警察の尋問を受けている少女がいた。

「それがですねぇ…その遺体と女の側に、あの娘が立ってたんです。血だらけで。」

七海の目が、咲を見て…微笑んだ。

「富士本刑事、やっぱ事故じゃないわね」

「何のことだ?」

彼女と出逢った時に、また会う気がしていた。
この「勘」と普通とは違う洞察力こそが、咲の大きな武器なのである。

「あらっ❗️」
咲が見つめるモノを大勢の者が見た。

「綺麗…」

雨上がりの黄昏に、薄く浮かぶ月。
それと重なる七色の虹。

レインボームーン。
それもまた、自然が作り上げた偶然の産物。

「偶然ねぇ…」

咲の鋭い勘は、この不可解な現場が、決してただの偶然ではないと確信していた。

「よし、決めた❗️」

珍しい自然現象を前に、自らの意思で、彼女は運命を変えた。

「富士本刑事、携帯貸してくださる?」

「はぁ?…ま、まぁ…いいが」
 富士本が手渡す。

「もしもし、咲です。私、弁護士辞めるわ。あと、よろしく!」

「おいおい、咲さん」

「今日の被告、あいつ絶対に犯人だし、あんな奴を助けるのは、もう今日で最後にするわ」

咲らしい、運命の判断であった。
…今日が初めてではあったが💦