「上行くぞ」
「・・・ち、千鶴さん!」
あたしの目の前まで来てそう言うと千鶴さんはすぐに背を向けようとした。
思わず千鶴さんを引き止める。
綺麗な黒が、再度あたしに向けられた。
「二階席・・・、行ってもいいんですか」
まだ、この時のあたしには何もわからなかった。
何も知らなかった。
怖かった、嬉しかった、不安だった。
千鶴さんのそばにいることが。
近づいていくことが───────。
「ああ。友達もいいから早く来いよ」
「ここはうるせえんだよ」と不機嫌そうに眉を寄せた千鶴さんはそのまま二階席へと向かう。
その後をあたし達は戸惑いながら、ソワソワしながら、ついて行った。



