「千鶴さん・・・」


自然と零れた声はこのガヤガヤとしたクラブの中で、二階席にいる千鶴さんには聞こえるはずはないのに。

まるでその声が聞こえていたかのように千鶴さんの目が僅かに細められた。



そしてソファから腰を上げた千鶴さんがゆっくりと階段を降りてくる。


その行動に気づいたフロアは彼を慕い、リスペクトする視線と歓声に包まれた。




「・・・っ」



だけど千鶴さんはその歓声には一切反応を示さずにゆっくりと、堂々と、あたし達のいる方へと歩いてくる。


あたしのことを真っ直ぐ見つめながら、確実に一歩一歩近づく千鶴さん。



なんでだろう、どうしてだろう。


心臓がギュッとなる。