君ありて幸福 【完】



「深くは切れてなかったからもうこれで大丈夫だよ」

「ありがとうございます···」


楓也さんの手当ては素早くて、五分もしないうちに消毒をしてもらい絆創膏を貼ってもらった。

楓也さんが手当てをしてくれている間、千鶴さんはもちろん昴さんも何も喋らず、千鶴さんに至っては何かずっとこっちをジッと見ているしで、居心地は悪かったけれど···。




「···じゃ、じゃあ、あのあたし戻ります。グラス本当にごめんなさい、手当てありがとうございました···」



だから早くこの空間から逃げ出したくて、足早にこのソファ席から立ち去ろうとすると、




「お前、」



千鶴さんがあたしの手を掴んで引き止めた。