もう、苦しいんだ。
振られてしまった事実はもう変わらない。
千鶴さんがこうして会いに来てくれても、彼が出した答えは覆らない。
もう、苦しい。
千鶴さんの事が何もわからないから。
もう、辛いんだ。
「ビジネス上ではこれからもよろしくお願いします」
婚約の話は白紙に戻ったがビジネス上は力になってくれるらしい。
お父さんはそれだけでは満足してはいなかったけどそれは最大限の千鶴さんの、千鶴さんのお父様の優しさだ。
そんな彼に深々と頭を下げて千鶴さんの横を通り過ぎようとしたあたしの手首を千鶴さんが掴んで引き止める。
「雪乃」
「っ」
千鶴さんの困った様な悲しそうな瞳。
なんで、千鶴さんがそんな目をするの⋯?
なんで──────。
「雪乃、俺は───」
「聞きたくないっ!」
千鶴さんの瞳に捕らわれ動けなくなりそうになる瞬間、千鶴さんが声を発した事で我に返ったあたしはその手をパシンと振り払った。



