「ねぇ待ってよお父さん、あたしそんな話一度も聞いてないよ」
「わざわざ言う必要があるか?」
「あるかって⋯あるでしょ!?婚約者なんて⋯あたしの人生に関わる事だよ?ねぇ、どうして何も言ってくれなかったの」
「言ったところで何も変わらないだろう」
「あたしの気持ちは?あたしの気持ちはどうなるの!」
「そんな事関係ない」
関係ない。目を逸らすこともせずそう言ったお父さんに絶句した。
娘の気持ちなんてどうでもいいその態度に激しい憤りを感じた。
「お前がこの婚約の話を喜ぼうが嫌がろうがそんな事はどうでもいい。選択肢は受け入れるしかない。お前はただ俺の為に⋯会社の為に尽くせばいいんだ」
「⋯何よ、それ⋯」
「だってそうだろう?会社を更に大きくさせる為に、強くする為には更に大きなところと組むのも大事なことだ。その為なら使えるものは何だって使うさ」
いつの時代だよ、と。家の為に、会社の為に自分の為に娘を更に強い家に嫁に出すなんて貴族かよと武家かよと呆れる。
今の時代からはみ出していると思わざるを得ない。
でもそれよりも何よりも、まるであたしは父の傀儡の様だと泣きたくなった。



