「たけど確実な事を知らなければ知らないですごく苦しいの」
「うん⋯」
「辛いの」
「うん⋯」
「胸が痛いの⋯」
そう言いながら無意識のうちに胸元をギュッと掴んでいたあたしの手は力を入れ過ぎて白くなっていた。
「⋯⋯⋯雪乃」
その様子を見ていたあさみは眉間に皺をよせてしばらく考え込んだ後、真っ直ぐにあたしの目を見た。
「雪乃。これは私個人の考えだから必ずそうしろとは言わないけど、私はちゃんと千鶴さんに聞いた方がいいと思う」
「っうん⋯」
「今の時代許嫁なんてあるのかって疑問なところもあるけど相手はあの有馬財閥でしょ?ない話ではないと思うの」
「そうだよね⋯」
「でも、だからこそちゃんと千鶴さん本人から話を聞いた方がいいと思う」
「⋯」
「雪乃の怖いって気持ちもわかる。もしそこで聞きたくない話を聞いてしまったらと思うと足が竦んで動けなくなるのもわかる。すごくすごくわかる。だけど、」
「うん⋯」
「今雪乃がこの状況が辛いと思うならちゃんと聞いた方がいいと思うよ」
「⋯うん」
「適当な事や無責任な事は言えないけど、少なくとも私だったら聞く。その人の口からちゃんと話を聞く。聞いた後の事は⋯その時になってみないとわからないけど⋯
、それでも何もしないよりは変わると思うから⋯それが良い方になのか悪い方になのかはわからないけどさ」
考えや気持ちを真っ直ぐに伝えてくれたあさみにまだ迷っていた答えが固まったのがわかった。
嫌な事は聞きたくない。傷つきたくない。何も知りたくない。
怖いから。
だけどそれと同じくらい千鶴さんの口からちゃんと話を聞きたいと、この状況から抜け出したいとも思ってる。
聞きたくない事を聞いてしまうかもしれない。
その時あたしはどんな風になってしまうのかわからない。
今以上に悲しい思いをして押し潰されそうになるかもしれない。
だけど昴さんやあさみの言うようにこのままでは何も変わらない。
良い方にも悪い方にも進まない。
ならもう答えは一つしかない。



