やっと離してもらえた安心感と痛みが和らいだ感覚にもういち早く彼女から逃げようと立ち上がろうとした瞬間、
「あんたは調子に乗りすぎた。どうせ私のことを可哀想だとでも思ってるんでしょう。でも⋯、あたなも大概可哀想よ」
無表情でそう言った彼女の言葉に足を止めた。
そして彼女は次の瞬間、あたしの一番聞きたくなかった言葉を。
あたしが一瞬で絶望を感じる言葉を放ったんだ。
「彼にはちゃんとした婚約者がいるもの」
ヒュッと喉が鳴った。
「お父様が言っていたわ」
「そん、な ⋯」
「詳しいことはわからないけどそういう相手がいることだけは確か」
頭が真っ白になるとはこういう事なんだろう。
目の前がボヤけて見えて何も考えられない。
ただ彼女の言葉だけが頭に響く。



