君ありて幸福 【完】


「久しぶりだな」

「⋯っ」


声を聞いただけなのに鼻がツンとなって涙が出そうになる。



「今大丈夫か?」

「大丈夫です」


低くて落ち着く、この声が聞きたかったの。




「今家か?」

「はい」

「⋯最近来ないな」


そう言われただけで千鶴さんに会いたくなる。

苦しくてたまらなくなる。




「ごめんなさい、最近父が帰ってくる事が多くて⋯夜は出られないんです」




嘘をつくことはすごく苦しい。

それでもあたしはまた嘘をつく。




「そうか」

「はい⋯」

「⋯⋯」

「⋯⋯」

「何もないか?」

「えっ⋯?」

「皆心配してんだ。最近来ねーから」

「⋯⋯」

「俺も心配してる」

「っごめんなさい⋯」

「何かあったりしたんじゃないのか?」

「⋯違います」

「本当か?」

「はい。何もないですよ。だから心配しないで下さい」




心配掛けたくないのに⋯結局心配掛けてしまってる。

嘘なんかつきたくないのに、上手く嘘をつこうとしてる。

本当はつけられているって、怖いって言いたいのに言えない。言いたくない。




「また行けるようになったら行きます。⋯行ってもいいですか?」

「当たり前だ」


あたしの問いにふっと笑って答えてくれた千鶴さん。

その瞬間涙が零れ落ちた。



「ありがとうございます⋯!」



千鶴さんの声が聞けて、笑った声が聞けて。

心配して電話を掛けてきてくれて、当たり間のようにそう答えてくれて。


嬉しくて、だけどどうしても切なくて苦しくて⋯。