君ありて幸福 【完】


さっきまで顔を出していた太陽は完全に姿を隠し、キラキラと輝いていた海にはその輝きが無くなり、辺りもすっかり暗くなった。


夕日が沈むのは一瞬の出来事のようだった。





「そろそろ帰るか」



そう言って立ち上がった千鶴さんの表情はいつも通りだった。



さっきまでの会話はなんだったのか。
千鶴さんなりに意味があったのか。


この時のあたしにはわかるはずもなく、温かくも切ない気持ちを覚えただけだった。



「雪乃」

「っあ、はい。帰りましょうか」


変に意識するのも変かもしれない。
千鶴さんがいつも通りなんだからあたしもあまり意識しないようにしなくちゃと、さっきの会話を忘れるということは出来ないけれどなるべくいつも通りを装い、ザザ────、と音を立てる海に背を向けた。