一度唾を飲み込んで、軽く深呼吸をして。
そしてしっかりと千鶴さんの瞳を見て。
「あ、たしは⋯」
「うん」
「あたしは将来、好きな人と一緒になりたいです」
「⋯⋯」
「本当に好きだって思った人と、どんな時でも一緒に歩んで行きたいと思った人と、本当に愛する人と一緒になりたいです」
「⋯⋯」
「それってすごく難しいけれどすごく愛しくて嬉しくて尊いものだと思うから」
少し、声が震えていたかもしれない。
いくら気持ちは伝えてないと言っても好きな人に面と向かって言うのは尋常じゃないほど緊張した。
すごく、すごく、すごく、すごく、怖かった。
赤くなった頬はオレンジが隠してくれる。
最後まで千鶴さんから目を逸らさなかったあたしに千鶴んは
「そうか」
とだけ微笑んだ後、あとほんの少しで沈んでしまいそうな太陽へと目を向けた。
最後の輝きを放つ太陽に照らされた端正な横顔はいつもよりどこか悲しそうに見える。
僅かに細められた瞳は太陽の輝きのせいなのかそれとも他に何か理由があったのか。
わかるはずもなく、
ただあたしはその切なくて儚くて、海よりも夕日よりも何よりも綺麗な横顔を見続けていた。



