君ありて幸福 【完】



────好きな奴、いんのか────




想像もしていなかった言葉に、勢いよく千鶴さんの方を向く。




「好きな人、⋯?」

「⋯ああ」



どうして、そんなことを聞くんだろう。

あたしが「いいなぁ⋯」なんて言ったから?



「どうしてそんなこと聞くんですか⋯」

「ただ気になっただけだ」



期待とか、調子に乗ってるとかじゃなくて胸がドキドキする。





⋯もし、


もし、好きな人がいると言ったら何か変わるのかな?

────きっと何も変わらない。



⋯もし、


もし好きな人は千鶴さんだよと言ったら何か変わるのかな?

────きっとすごく困らせて、気まずくなって、少し近づいた距離は元に戻ってしまう。





それにちゃんと身の程をわかってる。

わかってるから─────。