「ほら」
「⋯受け取れないですよ」
水族館を出たところで千鶴さんはぬいぐるみをあたしに渡そうとしたけれどそれを受け取ることは出来ない。
「欲しかったんじゃねぇのかよ?」
「お金払います」
「いらねぇ」
「なら受け取れません」
「受け取れよ」
「無理ですよ⋯今日何から何までしてもらいっぱなしですもん⋯」
交通費からお昼も水族館の入場料も、全部千鶴さんに払って貰っている。
連れてきてくれるだけで、こうして一緒に過ごせるだけで嬉しいのに何から何までしてもらって⋯それで良いのかなって思う。
「俺がいいって言ってんだからいいんだよ」
「⋯そんなこと言われても」
「今日は雪乃の為なんだから」
「え⋯?」
思わず千鶴さんを見上げる。
「雪乃に楽しんでもらいたい。喜んでもらいたい」
「っそれはもう⋯、楽しいですよ、楽しすぎるくらいです」
「そうか」
「はい⋯」
「なら遠慮すんな」
「でも、」
「その方が俺は嬉しい」
「っ」
「だから受け取れよ」
僅かに口角を上げた千鶴さんにまたキュンとなる。
良いのかな、本当に受け取って。
何から何まで本当に甘えてしまって良いのかな?
まだ迷うけど、
「ほら」
優しい笑みを浮かべてぬいぐるみを差し出す千鶴さんが良いと言うのなら、喜んでくれるなら、甘えてしまってもいいのかな。
その厚意を、優しさを、素直に有難く受け取っても良いのかな。



