目の前に止まった厳ついバイク。
「よお」
何事かと戸惑うあたしの耳に届いたのは待ちに待った人の声。
「千鶴さん!?」
フルフェイスのヘルメットを取った彼は相変わらず見惚れてしまうようなその顔を惜しげもなく晒す。
まさかバイクで登場するとは思わず、その大きな車体をまじまじと見つめた。
「バイクで来たんですか」
「ああ。これで今日は⋯、何でもねえ」
「?」
不自然に言葉を止めた千鶴さんに首を傾げる。
何でもないと言われたら気にもなる。
「どうかしたんですか?」
そう聞くけれど千鶴さんは「いや」とか「何でもねえよ」と言って教えてくれない。
千鶴さんらしくない言葉の濁し方に余計気になった。
「教えてください、気になります⋯」
誤魔化されれば誤魔化されるほど気になってしまうのは人間の性。
千鶴さんを見ながら強く求めれば千鶴さんは渋々といった感じで言葉の続きを教えてくれた。