「え⋯」
届いた声に視線を千鶴さんへと戻す。
「明日もTrust、来んのか?」
「⋯えっと、」
千鶴さんから、来るのかと聞いてくれた。
⋯深い意味なんてないのかもしれない。
というより深い意味なんてない。
だけど、明日も来るのか。その些細な言葉があたしにはすごく嬉しかった。
「行ってもいいんですか?」
「いいから聞いてんだろ」
「あ⋯そうですよね、すみません」
「で、来んのか」
すごく、嬉しかった。
「行きます!」
気づけばあたしは夜だというのにそう叫んでいて。
「近所迷惑」
「⋯っ!、ごめんなさい⋯」
注意されて慌てて両手で口元を抑えた。
「つーかもう家入れ」
「あ、はい。今日は色々とありがとうございました。帰り気をつけてください」
「何にだよ」
「色々です。夜なので危ないですし⋯」
いくら千鶴さんといっても本人が言っていたように中には変な人も居るかもしれないし、交通面でもお昼より危険なことは多い。
だから至って真面目にそう言ったのに、
「変わってんなお前」
千鶴さんは呆れたように笑うだけ。
「真剣なんですけど⋯」
「はいはい」
「本当に気をつけてくださいね」
「ああ。ほら、早く入れよ」
絶対に気をつける気がない千鶴さんに眉を寄せるけれどほら、と身体の向きをくるりと変えられてしまう。
「千鶴さん、」
「メシ、付き合ってくれてありがとな」
「⋯っ」
「明日待ってる」
「っ!」
嗚呼、千鶴さんは狡い。
好きな人にそんなこと言われてときめかない人は居ない。
嬉しくない人はいない。
“待ってる”って言葉がどれ程嬉しいか。
「じゃーな、おやすみ」
「⋯っおやすみなさい」
マンションのエントランスにあたしを押し込んだ千鶴さんは最後にそう言うと背を向けて帰って行った。
また、千鶴さんへの想いが増した。



