駅からあたしの住むマンションまでは歩いて数分。
「あ、家着きました」
あっという間にそこに着いてしまった。
「でけぇマンションだな」
千鶴さんは足を止めた先にある50回建てマンションを見上げて微かに笑った。
「千鶴さんのお家とは比べ物にならないと思いますけど」
確かにあたしの住むマンションは一般的な家賃とは言えないのかもしれないけど、有馬である千鶴さんとは比べ物にならない。絶対に。
千鶴さんの住むお家がどんな風なのかわからないけど、このマンションを見て本当に驚くことなんてないんだろうとは想像がつく。
それくらい、有馬財閥というのは規格外で絶対的な存在なんだ。
「ここに父親と二人暮しなのか?」
さっきカンジイのお店で泣いたからか、横目でマンションを見ながら千鶴さんが言う。
だけどそれは哀れんでいるとかじゃなく、同情とかでもなく、どちらかというと無機質なような声で。
だけど、どこか優しく案ずるような口調で。
「はい。最近は忙しいらしくてあまり顔を合わせて居ないんですけど⋯」
「そうか」
「はい⋯」
「⋯⋯明日も来んのか」
無意識に視線を足元に下げたあたしの耳にいつもより少し明るい千鶴さんの声が届いた。



