そんな会話をしながら裏通りを歩いているとメイン通りに入る前に千鶴さんが振り返り、
「バイクと電車。どっちがいい」
そう言った。
「え⋯?」
いきなりのことに首を傾げたあたしに千鶴さんはポケットからチャリンと音を響かせてバイクの鍵と思われるものを取り出す。
「家まで送ってく」
「⋯⋯⋯、!」
送ってく。そう言われてやっと意味がわかったあたしはそれはもう凄い勢いで首を横に振った。
「い!いいです、送ってくなんてそんな!」
「は?」
「一人で帰れますし、わざわざ悪いですから、大丈夫です」
だってあの千鶴さんに送ってもらうなんて何様なんだって感じだし、千鶴さんだってわざわざ送りたくなんてないだろうから申し訳ないし。
だから断ろうと思ったけれど。
「一人じゃ危ねぇだろ」
「⋯⋯」
「別に悪いとか思わなくていいし」
「⋯⋯」
「この辺りは比較的安全だけど中には変な連中もいんだ」
「⋯⋯」
「いつもはあの友達が居るから大丈夫かもしれねえけど、こんな時間に一人は危ねぇだろ」
「⋯⋯」
「だから早く選べ」
有無を言わせない千鶴さんの瞳に、
「ほ、本当に迷惑じゃないですか⋯?」
「ああ。だから早くしろ」
あたしは逆らうことが出来なかった。
それに、送ってくれる。もっと千鶴さんと居られる。
そんなの嬉しくないはずがなく、申し訳ないと思いながらもどこか喜んでいるあたしがいたのが事実だった。



