君ありて幸福 【完】



⋯⋯っ!



一口食べたナポリタン。


それは驚くほど美味しくて、味はシンプルなのに本当に本当に美味しくて。


上手く言えないけれど、今まで食べたどんな料理よりも美味しいと思ったんだ。

温かいと思ったんだ。



「どうだい?」


「美味しいです、すごくっ⋯」



だからかな。

いつの間にかあたしの両目からポロポロと涙が零れ落ちていた。


それに気付いたのは頬が濡れたことと、千鶴さんと寛治さんが驚いた表情であたしを見ていたから。




「あれ、⋯」


いきなり泣き出して変に思われるのは当然で、ボロボロ零れる涙を両手で拭うけど、なかなか涙は止まってくれない。



「ごめんなさい、本当に。⋯でもすごく美味しくて、」




お母さんが居ないから家庭の味なんて知らなくて。食べるものと言えばあたしには格の高すぎる高級な食べ物ばかりで。

高校生になった今は自分で作ったものを一人で食べる毎日だったから。

だから。



誰かの手料理を久しぶりに食べたから⋯

そのお料理に確かに真心を感じたから⋯



こんなに涙が出るんだ。