「え⋯」
まさかどけと言われるとは思ってなかったのか女の人は驚いた表情で固まった。
だけど千鶴さんはそんな女の人なんて気にする素振りもせずにあたしの手を引いて再び歩き出す。
女の人はとても綺麗だし、気軽に千鶴さんにも声を掛けられるし、千鶴さんは女の人の誘いに乗ると思った。
だけど違った。
千鶴さんは女の人を断り、あたしの手を取ってくれた。
さっきまであたしを侵食していた黒いモヤモヤがすうっと無くなっていくような感覚がした。
「千鶴さん、いいんですか⋯?」
「ああ」
「⋯っ」
ショックだったり苦しかったり、だけど次の瞬間には嬉しかったり。
恋をするとジェットコースターのように感情が次々と変わっていく。
「ちょ、千鶴さん!?」
少し後ろの方で女の人の声がしたけれど、千鶴さんに手を引かれていたあたしはそれに振り向くことはしなかった。



