君ありて幸福 【完】


千鶴さんと一緒に喫茶店へと向かう。

さすが千鶴さんと言うんだろうか、周りにはたくさんの人がいるけれど千鶴さんの通る道は人が端に避けるから人がこんなにいるけれどスイスイと進める。



だけど時々、


「千鶴さーん!」


派手だけどとても綺麗な女の人が寄ってきて千鶴さんの腕に手を絡ませる。



「ね、今夜どう?」

とか

「最近私と全然遊んでくれないから寂しい」

とか

誘うような表情で甘い声を出す女の人たち。




一歩後ろにいるあたしなんか目にも入ってないように、クラクラするほど甘い香りを纏って千鶴さんに絡みつく。


遠巻きに千鶴さんを見ている人が大半の中、こうやって近くに来て親しそうに話しかける女の人はきっと、前にも千鶴さんと関係を持った人たちに違いなくて。


黒いモヤモヤとした何かがあたしの心を支配していく。



話しかけないでって、触らないでって、彼女たちに、彼女たちと千鶴さんの関係に醜い嫉妬をしてしまう。





「ねぇ、どう?」


上目遣いで、妖艶に千鶴さんにそう囁いた彼女にドクドクと心臓が速くなった。

もう、彼女が目の前にいるだけで嫌だと思ってしまうくらい、もう、いっその事この場から逃げ出したくなる。




「どけ」


だけど、千鶴さんのイライラしたような冷たい声が聞こえて俯いていた顔を上げた。