暫く楓也さんと話したり時々昴さんと些細な言い合いをしたりと、来る時はドキドキとしていたことが嘘のように楽しい時間を過ごしていた。
緊張したけど、一人でも来てよかったなと思った時、
「雪乃」
低くて甘い心地良い声が隣から聞こえた。
「千鶴さん?」
名前を呼ばれて千鶴さんを見上げると
「飯、行くか」
と確実にあたしに向かって言った。
飯⋯。
「え?」
名前を呼ばれてあたしの顔を見て言った千鶴さんにそれがどういう意味なのかわかってるんだけど、わかってるんだけど信じられなくて間抜けな声を出してしまう。
「ご飯、ですか?」
「腹減らねえ?」
「減りましたけど⋯え?」
「なら飯行くぞ」
「えっ、ちょ、千鶴さん!?」
言うが早いか立ち上がった千鶴さんはあたしの手を引いて階段の方へと歩き出す。
触れた手が熱くなった。



