「ないですよ、何も」

「気になる人とかも?」

「⋯⋯」


楓也さんは何を言いたいんだろう、ニコニコ笑う楓也さんに敵意は感じられないけれど、明らかに面白がっている。


きっと楓也さんには爽やかな見た目とは裏腹に物凄く意地悪な一面がある。




「気になる人も、いません⋯」



隣の千鶴さんは視線すらあたしに向けてなくて話を聞いているのかすら曖昧だけど、それでもあたしは隣の千鶴さんを意識せずにはいられなくて、妙に熱くなる顔とドキドキと高鳴る胸を抑えながらそう告げた。




「そっか」

「はい⋯」

「残念」

「⋯⋯」


「つーか何だよこの話、コイツの恋バナほどつまんねーもんはねーよ」

「昴さんそれすごく失礼です」

「あ?」


別にあたしの恋愛に興味を持って欲しいなんて微塵も思わないけどそう言われるとムッとしてしまう。




「それに恋バナって⋯っ、ふ、」


だけど昴さんから出た恋バナという意外な単語に思わず笑ってしまうと



「何だよ悪ぃかよ、笑うな地味女」

「すみません、意外で⋯似合わなすぎて、」

「てめー馬鹿にしてんのか」

「ごめんなさい⋯ふふ、」



わかりやすく不機嫌になった昴さんにこういう会話を出来るほど昴さんと仲良くなれたと言えば語弊があるかもしれないけれど、こうやって下らない言い合いをしていることが楽しいとさえ思った。