「でね、この前───⋯、」
あさみがこの前あった面白い話をしていた時、Trustの入口の方から地響きのような声が聞こえた。
「来たみたいだよ」
梓さんの声に入口の方を見れば千鶴さんと楓也さん、昴さんが丁度フロアへと入って来たところだった。
今日もたくさんの視線を浴びる千鶴さんはその視線と歓声に不機嫌そうに目を細めながら、二階席へと続く階段を登って行く。
その姿はまるで本物の王様の様。
「⋯⋯⋯っ」
圧倒的なオーラを放つ千鶴さんを見ているとフロアを見渡せる様になっているいつもの定位置に腰を下ろした千鶴さんと目が合った。
その瞬間、ドクンと心臓が大きく跳ねる。
⋯自覚する前と自覚した後じゃドキドキも違う。
自覚したからこそより、千鶴さんを見ただけでドキドキする。
「─────⋯、」
ボーッと下から千鶴さんを見つめているとふいに、千鶴さんが口を開いた。
形の良い綺麗な唇が、
“来い”
そう動いた。



