君ありて幸福 【完】




「千鶴、さん⋯」


この賑やかな街で、あたしのか細すぎる声は遠くにいる千鶴さんには聞こえない。

きっとすぐ隣にいるあさみにさえも聞こえていない。



どうして、

どうしてこんなに心がギュッと痛くなるの。




千鶴さんは綺麗な女の人の腰に手を添えて歩いている。

女の人はうっとりした表情で、だけど毅然とした態度で、千鶴さんの隣に寄り添う。

周りは千鶴さんを見て頬を染める。

千鶴さんは周りなんて一切見ずに、あたしなんかには少しも気づかずに、感情すらも表すことなくただ前を見ている。




「⋯っ」


それが、どうしてこんなに苦しいの。

女の人と歩く千鶴さんを見るだけで、頭が真っ白になる。

どうしようもなく、焼けるように胸が痛くなる。





あたしが昨日感じた違和感。

それはこれだったんだと気づく。


あたしがあのソファ席に行く前日まで、あたしがフロアから千鶴さんを見上げていた時。

千鶴さんはソファ席から降りてTrustを出る時にはいつも女の人を連れていた。


いつも一階にあるソファ席から違う女の人を選んで連れていた。



あたしが居るからかはわからないけど、あたしが二階のソファ席に行くようになってからは千鶴さんが女の人を連れている姿を見なくなった。

それはあたしが先にTrustを出るからかもしれないけど⋯。

だけどきっとこうしてあたしが帰った後に女の人と過ごしていたんだと思う。




⋯そう思ったらすごく悲しくなった。