甘くて甘くふやけてしまいそうになる仕返しを、どうして嫌だと拒むことがあるの。


「輝がいると、ベッドで過ごす時間すごい多いね。新調しようかな」

「い、いいよ。そんな理由で買わなくても」


いざ(・・)掌で膝を(くる)んだこの時に、する話でもあるようでないような。


「もうちょっと大きくて、ゆったりできる方が楽じゃない? あと、硬さとか平気? 引っ越しの時に適当に買っちゃったから、どうせならいいのが欲しいし。それに」


――大事な輝、抱くんだもんね。


「……っ、いじわ、」

「る、するって言ったよ? 」


事前申告どおりだって言われても、こんな意地悪、堪えきれないって分かってる。


「……可愛い。でもこれ、俺のが辛いんだけど……」


じゃあ、やめて、早く。
顔に出てたのか嬉しそうに笑って、目の端に溜まっていた涙を拭いた。


「でも、その可愛い顔見ながら、意地悪したい気持ちのが勝っちゃうな。今は」


意地悪プラス、前髪が触れそうなほど近くで見下ろされる、プラス。


「教えてよ。輝に、さっきみたいなことさせたやつ」

「な……まえっ……? 」

「そう、名前。何て呼んでたの。何て口説かれたの。それともまさか、しなきゃ嫌いになるとか脅された? 本当にまさかとは思うけど、無理やり乱暴なことされたりしたの」


――情欲に揺れた瞳で、意地悪。


「や……っ、そんなの忘れ……」

「うーそだ。もしかして、庇ってる? 輝、なんで……? 」


敵うわけないって分かるから、余計に意固地になる。
そもそも、そんなの知ってどうしようっていうんだろ。


「……陽太くんに、何かあったら……」


歯切れが悪いし、遠回しすぎて尚更気分を害するだろうって予想はつくのに。
でも、他に何て言っていいのか分からなかった。


「俺に悪いことさせたくない? ……本当に変わらないね、輝。そうやって、そんなことで泣きそうになって。……大好きだよ。ずっと」


その台詞、ほぼ全部聞き覚えがある。
なのに、どうしてだろう。
今、初めて聞いたことが、私の知らなかったことが何か、ある気がする――……。


「じゃあ、こっちにしよっか」

「……っ」


待ち望んだはずなのに、予想に反して意地悪が終わったことに、身体が追いついていかない。
誘ったのは私なのに、急に入られたことに驚いた上半身が浮く。
そんな私に吐息だけで笑って、耳に口づけては簡単にもう一度沈ませて。


「あの男とは、どんな感じだったの? 池田」

「……どんなって」


何もないよって首を振っても、許してくれない。


「何にもないのは知ってる。でも、さ。輝、あいつのこと、ちょっと好きだったんだよね? もしかして、輝をつけてた男かもしれないのに、絆されちゃうんじゃないかって心配」

「そんなことしないよ……! 」


怖かったって。
後ろから追われるんじゃなくて、正面から池田さんを見ても怖くなっちゃったって言ったのに。


「うん。そうだよね。ごめん、輝が浮気するとか疑ってるんじゃないんだ。ただ、輝は優しいから」


(ほんと……? )


本当に疑ってない?
心配で怖くて、陽太くんの雰囲気が不穏になったと怯えてるのに。


「……っあっ……! 」

「こう、やって……俺のことみたいに許しちゃうんじゃないかって、心配……」


怖がることすらできないくらい、次々に快楽を与え続けられる。


「ダメだよって言いながら、泣きそうにして。でも、その後こうやって受け入れて、きゅってしてくれるみたいに。……俺のこと、みたいに……」


――俺のこと、何度も何度も。


「陽太くん……っ……? 」


しか、いない。
どうやったら伝わるのか模索する頭が馬鹿になって、全然何も思いつかなかった。
でも、ああ、ここしばらくのモヤモヤはもしかして――……。


「……こっちに引っ越してくる前は……」


(……あのひ、のまえ……)


ふっと笑って、優しく髪を撫でて。
場違いな質問には、答えてくれなかった。


「大好きだよ。意地悪な輝も、優しい輝も大好き。……大丈夫、俺が気をつけてればいいことだから。輝は何も心配しないで、ここで……」


何も考えないで。
気持ちよくなってて大丈夫だからね。

最後に囁かれた「愛してる」で、もう何を聞きたかったのかも分からなくなった。