朝、目覚めると、いつも通り、素顔の美春が僕の隣で寝息をたてている。

30代半ばとは思えぬ、陶器のような肌だ。

美春は、不器用にしか生きられない兄とダブるところがあって、最初はそんな理由で気になっていた。

人事からも、美春は持病があると聞いていたし、もし困っていたらすぐに助けようと思い、密かに見ていたが、美春の仕事ぶりは、不器用さこそあっても、常に誰よりも一生懸命なので、黙って見守ることにしたのだ。

しかし、毎日見ている内に、時折何か思い悩んでいそうな雰囲気を察知し、BBQの時に思いきって接近してみた。

どの時点で美春を好きになったかは、今となってはわからない。

今まで、恋愛や結婚なんて全く関心がなかったのに、いつの間にか、彼女に夢中になっていた。


実を言うと、美春と付き合い始めたばかりの頃、不安が全くなかったと言えば嘘になる。

どちらからも口にしなかったが、彼女にはずっと誰か忘れられない存在がいることは、親しくなって間もない頃から気付いていたから…。

ハッキリ確かめたわけではないし、この先も確かめるつもりはないが、ずっと忘れられなかった相手が、僕の親友の大賀だということも、直感で判った。

旅行の誘いを断られた時、気にしていない振りをしたものの、不安が増したのも本音だ。

愛した分だけ愛してくれなくても構わないし、忘れられない人が居たとしても、ただ側に居てくれるだけでもいいから…どうしても失いたくなかった。

それでも、不安があっても、誠実な彼女だし、僕も本気で愛していたから、信じていた。