下山し道路近くの自動販売機に自転車を停めた菜音くんは

「あ、待って」

声をあげた。

私と沙羅は自転車を止めて降りた。

菜音くんは私達の姿に安心してお茶を買って水筒に入れ始めた。

「あれ?あれ菜音くん家の車じゃない?」

「あ、ほんとだ配達かな」

「普通にお客さんとして髪切ってるんじゃない?」

ふと道路を挟んだ真向かいの美容室を見ると駐車場にパン屋の車が停まっていた。

お家のパン屋の名前の入ったデザインの車の軽バンは一目で菜音くん家の車とわかった。

ボーっと車を眺めて居ると美容師さんがお店から出てきた。

「あ、お母さんだ」

すると髪が綺麗になったお母さんが出てきた。

菜音くんが手を振ったが、お母さんは気づかないまま車に乗り込んだ。

私と沙羅は気づいて欲しいと思って手を振った。

だけどそんな私達にお母さんは気付く素振りが見当たらなかった。

「あぁ、気づかなかったね」

「でも、ワンチャン道路に出る時気づいてくれるんじゃない?」

そんな会話をしてると運転席の窓を開けて美容師さんとお母さんは会話をしていた。

『またお越しください』

『気をつけてお帰りください』

そんな会話をしてるのかなと思ったら

「え?え?え?え?」

「う……そ……」

美容師の男性が顔を車の中に入れ菜音くんのお母さんにキスをした。

「え……」

私達はかたまった。

かたまった。

かたまった。

あまりの目の前の衝撃にサーっと血の気が引く音が聞こえた。